【事例・ALDO社】レンダリングが速いユーザーは平均より75%増え、低速より327%以上の収益に!
※ALDOグループ(靴とアクセサリーの世界的チェーンを運営するカナダの民間企業)によるWebパフォーマンス改善事例をご紹介します
はじめに:改善せずに“効果”を測る
この記事では、ALDOグループで私が行った「パフォーマンス改善を行わずに、Webパフォーマンスが収益に与える影響を測定する方法」について紹介します。
まず強調したいのは:
- パフォーマンスは連続した“スペクトラム”であるということ。
- そして、レンダリングパフォーマンスは、Lighthouseのページロード系メトリクス(※)よりも遥かに重要であることです。
(※)特にSPA(Single Page Application)では、その傾向が顕著です。
私たちが「知っている」こと
パフォーマンス改善とビジネス成果の関係は、よく知られています。
- Walmartでは、100msの改善ごとに最大1%の収益向上。
- Cloudflareによると、5.7秒→2.4秒への読み込み短縮でCVRが3倍に。
- Akamaiの調査では、読み込み遅延が2秒増えると直帰率が103%増。
つまり、「速い=稼げる」という公式は今や常識といえるでしょう。
私たちが知らないこと
企業の構造はそれぞれ異なります。たとえば、ALDOグループ(ALDO、Call It Spring、GLOBO)は、SPAでEコマースサイトを構築しています。
ひとつの買い物セッションが40分にも及び、読み込まれるページは1つだけ。そんな状況で「ページロード時間」にこだわる必要があるのでしょうか?
それは、私たちにも当てはまるのか?
冒頭でも触れましたが、パフォーマンスは「連続的な現象」です。しかし、データを使えば1日で答えを出せます。
例えばAppleがバッテリーが劣化したiPhoneの性能を意図的にスローダウンするように、ユーザーの体験速度には差があります。この差をもとに、ユーザーを体験別にグループ化してCVR(コンバージョン率)への影響を分析しました。
GoogleのLighthouseやChrome UX Dashboardに従い、以下のユーザー中心メトリクスをGA(Google Analytics)イベントとして送信しました。
- First Paint(Chromeのみ):最初の描画タイミング
- Time to Interactive(Chromeのみ):ユーザー操作に応答するまでの時間(50ms以内)
- Time to App Load(全ブラウザ対応):React.hydrateが完了し、アプリが応答可能になるまでの時間



つまり、「ある程度は」真実でした(※注1)。
実測値:Fast = ¥(キャッシュ)
モバイルのセッションごとに見てみると:
- 高速体験のユーザーは、平均より17%、低速体験より78%多くの収益をもたらしました。
では、ユーザーを「遅い→平均」「平均→速い」へ移行させたら、どれだけの収益インパクトがあるのでしょうか?

最大で9%の増収。もしこれが実現できるなら、かなり魅力的です。ですが、労力とのバランスは…?(それは後ほど)
残り39分50秒の価値は?
SPAでは、ページが1度読み込まれた後、ユーザーは長時間その中で活動します。では、残りの99.58%の時間におけるパフォーマンスの影響は、どう評価すればよいのでしょうか?
ここで核心となるのが「レンダリングパフォーマンス」です。
モバイルのセッションごとに見てみると:
- 高速なレンダリング体験は、平均より75%、低速より327%多くの収益を生み出していました。
なんと、収益は4倍以上!
「体験の質」を測る新しい指標を作る
GoogleはSPA向けの「体験の質」を測る明確なメトリクスを定義していません。そこで私たちは独自に発明しました。
サイトでは主にクリック操作が中心。そこで、**クリック後1秒間のフレーム数(FPS)**を計測し、「スムーズさ」を数値化しました。
スムーズさの指標 = クリック後1秒間のFPS
そして、次の3カテゴリに分類:
- 高速:40〜60 FPS
- 中速:20〜40 FPS
- 低速:0〜20 FPS


結果は圧倒的でした。特にデスクトップでは…
- 高速体験のユーザーは、平均より212%、低速より572%も多くの収益をもたらしました。

では、どう改善したのか?
実際に行った主な施策は以下です:
- React Profilerで主要な操作(ナビゲーション・カート操作など)の最適化
- 無限スクロールの最適化
- Reselectセレクターを最適化し、無駄な再描画を防止
- Reduxに
shouldNotUpdateStore
ミドルウェアを追加 enqueue saga
を使い、Reduxアクションの一括処理を実現


約1/3のユーザーを高速体験へと移行できました。
相関 ≠ 因果? その反論
「高性能なデバイスを持つユーザーが多く買い物するのは当然では?」という疑問、もっともです。
ですが、同一デバイス内でのFPSによる収益差を確認すれば、因果関係が逆ではないとわかります。
たとえばiPhone 8 Plusに限定した分析でも:

【図表10】iPhone 8 Plus:レンダリングカテゴリ別の収益推移
この結果が示すのは明確です。
アニメーションのスムーズさ = 売上
ROI(投資対効果)を最大にするには
ALDOでは、すでに次の施策は導入済みでした:
- コード分割(code splitting)
- 遅延読み込み(lazy loading)
- レスポンシブ画像対応
そのため、CSSやsagaの分割、webp・レスポンシブ動画などの改善は可能ですが、手間がかかる割に最大で9.3%の効果しか見込めません。
一方、レンダリング最適化はノーマーク領域であり、測定して初めて大きな可能性が見えてきたのです。
結論:あなたのサイトにも当てはまるかもしれない
Googleが言うように、「First Paint」「Time to Interactive」は多くのサイトにおいてCVRと強い相関があります。
でも、あなたのサイトはSPAかもしれません。より効果の高い改善ポイントがあるかもしれません。
そのために、まずは「測定」することが必要です。
パフォーマンスは“測定可能なスペクトラム”である
改善前でも、必ず“測る”ことはできるのです。
補遺:さらに深掘りするなら
Tammy Everts著『Time is Money』の影響で、私は「ロードスピードとビジネス価値」の関係をもう一度見直しました。


結論は変わりません。レンダリングパフォーマンスにこそ、最大のROIがあるのです。
著者:CP Clermont(@cpclermont)
Webパフォーマンスエンジニア。カナダ・モントリオール北部の町Prévost在住。フランス語が母語。